No.259 ・『THESONGWRITERS2ndSeason 』 @佐野元春(2)

kneedrop2010-09-21

A world of 1200 letters 『1200字の言葉の世界』−
「普遍の祈り」 DJ / KNEEDROP つづいてます。
佐野元春語録〉
  ロックは生き方    ロックンロールは、それを絶対にあきらめないこと。                 すべてに生き方に通じるものだと思うんです。
                             『ヤングロック』80年7月号

そしてこのようなTEXTとしての論文もありました。

論文・ソングライティングについて TEXT : 佐野元春  掲載時:1995年9月
掲載場所:THIS FALL 1995 Vol.1 NO.4「ハートランドからの手紙 #90」

 'FAQ'- Freqently Asked Questions(フレクエントリー・アスクド・クエスチョンズ)。
コンピュータ・ネットワークを利用しているとしばしば目にする言葉だ。
直訳すれば、「頻繁に問われる質問事項」となる。日常で討論が行なわれるときのことを想像してみて欲しい。ある発言者の発言に対し複数の質問が相次ぐことがある。
討論に参加する人々がそこに全員同席している場合は、ある人が代表発言者となって質問事項を一括することができる。しかしネットワーク社会においては、おのおのが自宅または会社のコンピュータを使って、離れた場所から発言することになる。だから、ネットワーク上では、ひとりの発言に対して、それを読んだ個々の人々から、同じような内容の質問が殺到することがある。
その数はおびただしいものとなり、とうてい個々に返答することは不可能となる。発言者はそうした事態を未然に防ぐため、予想される初歩的な質問事項については、あらかじめQ&A形式で返答を箇条化しておくのだ。そうすることによって、発言者は、同じような質問にいちいち答える必要もなくなり、コンピュータに向かって一日中メールを打ち続けるという無駄な苦痛から解放される、というわけだ。

 ポップ・ソングとは、言ってみれば、世間からのこの'FAQ'(頻繁に問われる質問事項)に対する、少しだけ気の利いた回答なのだと思う。世界には数えきれないほどのソングライターがいる。一週間に何曲もの「ポップ・ソング」が生まれている。唄の題材の取り方はそのソングライターによって、さまざまだ。
しかし共通して言えるのは、多くのソングライターたちが、日常のささやかな関心事から、宇宙規模の哲学的な関心事まで、この時代に暮らす人々のあらゆる関心事に沿って、言葉と音楽を紡いでいる、ということだ。「ひとはなぜひとを愛するのか?」これは未来永劫絶えることのない'FAQ'。「世界はなぜ不公平なのか?」これは、時代の混乱期によく見られる'FAQ'。
「恋って何?」これはティーンネイジャーからの'FAQ'。最近では、「神様って本当にいるの?」(ゴスペルを聞けばいいのに)とか、「SEX!!!」、「地球が破滅するって聞いたけれど?」といった類の'FAQ'も増えている。ソングライターたちは常にこれらの'FAQ'に、きっちりと気の利いた回答を与えなければいけない。
しかも時代や状況によって、言い回しに工夫を凝らさなければいけないし、時には自分がピエロになることもためらってはいけない。しかし何と言ってもソングライターたちを悩ませるのは、「僕(私)って何?」という'FAQ'だろう。この深遠な'FAQ'にまともに答えようとするソングライターも少なくはないが(自分のことか?)、たいていは失敗する。(つづく)

                  佐野元春 : オフィシャル・ファンサイト - Moto’s Web Serverより抜粋。