No.113・はじめての中沢新一@レヴィ=ストロース氏追悼(4)

kneedrop2009-11-28

A world of 1200 letters 『1200字の言葉の世界』−10
「普遍の祈り」 DJ / KNEEDROP つづいてます。
【2006-01-18 第30回 芸術と宗教の源は】
中沢新一さんの、イベントでのひとり語りをおとどけしています)
レヴィ=ストロースの考え方を使うとぼくがちいさい頃から抱えていた疑問は次のようになります。
人類が今の人類になった時、それがどういうプロセスで起こったかはよくわからないけれども人間の心というものが作りだされた。そしてその人間の心というのは右脳の中で発達した能力、すなわち世界を全体的に直感的に把握していく智慧の構造というものが最初に私たちの脳の中で発達したに違いない。
ただし、そして論理的な思考を行う能力、分離したり組みあわせたりする能力がいつ発生したのかというと……
それは人類の歴史のもっと前から発達してきたのでは、と考えることができるのではないか、とぼくは考えました。
旧人にはあって新人にないもの、これは、ほとんどないんですね。ところが新しい私たちの先祖である新人にはあってネアンデルタールのような旧人にはないものというのはあります。
それは芸術と象徴的な思考方法のこの二つのようなのです。これは、どうやらネアンデルタールにはなかったらしい。芸術をのこしていない。それから宗教的な儀式を行った痕跡がないんです。新人だけがこれを行うようになっているわけです。そうすると、レヴィ=ストロースの考え方というのをもっと発展させなければならない、というふうに、ぼくは考えるようになりました。
それはこの言語のもとになっている論理的な能力、この言語の構造というのは今の人類より前の旧人達、そのもっと前のホモエレクトスとかだんだんだんだん猿に近づいてくる、この人間にもおそらくあったものでしょう。
人間はほ乳類の中でもかなり弱い存在ですから。長い過酷な時代を勝ち抜いて行くために、人間は言葉を使ってコミュニケーションをするようになりました。
2006-01-19 第31回 矛盾が芸術を生みだした】
ホモエレクトスとかネアンデルタールに至るまでの人たちは言葉でコミュニケーションをしています。ポイントはここじゃないだろうかと思ったわけです。つまり、何か脳の構造に飛躍的なジャンプが起こってそして今のわたしたちの人類、ホモサピエンス・サピエンス、新人と呼ばれている人間のものの考え方の基本ができあがるわけです。このものの心の構造をつくりあげた大飛躍はどういう形態で行われたか、ということを考えてみると……合理的な言語形態からしたら、ある意味、非合理的で、矛盾に満ちて、そして現代人が行っている言語活動の中では詩の活動に最も近いものなのです。詩的な言語活動というのが可能になるような脳の構造が飛躍的に生まれたことによってはじめて人間は象徴的な思考方法ができるようになり、宗教を持ち、芸術を持つようになりました。
ということは今あるわたしたちの心が生み出している最初の智慧の構造、智慧というものがどこから生まれたかというとそれはこの時のジャンプと同時に発生している……。
ヨーロッパ的な文明の中で大変に精緻な形に発達させられた論理的な言語の構造というのは、その原型的なものは
ネアンデルタールにもその前の人類にもおそらく存在したものであろう。
ところがわたしたち新人の心の本当の本質、本物の特質というのを作りあげたのは、そういう言語の持っている
合理的な面ではなくてむしろ非合理的な面、違うレベルのことをひとつの言葉で同時に表現することができたり、
動きが変化しているものをそのままつかみだしたりするという能力なのです。
動きが変化しているものをそのままつかみだすためには矛盾にしたことをそのまま表現できなければいけません。
この能力が発生しないかぎり、わたしたち新人の心というのは今あるわたしたちの心にはならないだろう、ということが考えられます。(つづく)
                『ほぼ日刊イトイ新聞〜「はじめての中沢新一」アースダイバーから芸術人類学へ』より

パロール・ドネ (講談社選書メチエ)

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人類最古の哲学 カイエ・ソバージュ(1) (講談社選書メチエ)

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